第1章

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「この店を手放すつもりはありません」 秋月の言葉に、夏目がはっと驚いた顔になった。 ……手放す?この店を? 「父の借金は月々きちんと返済しています」 朽葉を見据えたまま秋月が言葉を続ける。 そうですね、と朽葉が吸い物を取って一口飲み込む。ゆっくりと味わってからおもむろに口を開いた。 「……今までの分はね」 今まで?と秋月が怪訝な顔になる。 「新しい証文が出てきましてね」 朽葉がスーツの懐から紙を取り出した。 「新しい……って、そんな馬鹿な!」 カウンターに出されたそれを秋月が手に取る。夏目が脇から覗き込んだ。 「―――三千万?」 金額を見た夏目の目が丸くなる。   「そんな……こんな話は聞いていません!」 「そんなもこんなも、こっちにゃぁ証文があるんだよぉ!」 恫喝に慣れた声が上がり、突然金髪の男が立ち上がった。 「下手に出てりゃァ―――」 不意にきらりと光を弾いて。男の目の前のカウンターに飛んできた何かが転がった。 「……なっ」 思わず男が飛び退って、座っていた椅子が派手な音を立てて倒れた。 カウンターにごろごろと転がったそれは、血糊も生々しい魚の頭だ。 「あ、すみません」 魚を捌いていたら手が滑って~と、へらりと笑った夏目が腕を伸ばす。 「んだとぉ!」 「沼田」 カウンター越しに夏目の胸座を掴んだ男を、朽葉がたしなめる。剥き出しの上腕に爬虫類めいた刺青をした沼田が、渋々といった様子で手を放した。三白眼が夏目を睨みつける。
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