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カウンター席に、その奥にある猫の額程の座敷。短冊サイズの田木さん直筆のメニューが、壁に貼り出されている。窓際に大量に並ぶ民芸品のこけし。懐かしい時代の和を感じさせる店内に比べて、カウンターでニコニコしている田木さんは、インド人のような風貌である。
元々、顎髭を蓄えた中東系の顔立ちなのに、更に田木さんはいつも頭にターバンを巻いているからだ。田木さんの家系は額から後退していくタイプのハゲらしく、いざ自分がハゲてしまったらちょんまげを作るのだと、後ろ髪を伸ばしていた。だいぶ長くなった髪を収納するのにはターバンがいいと、田木さんなりのこだわりがあるらしい。
いつもならカウンター席に座るけれど、今日は既にお客さんがいたため、奥の座敷に通して貰った。サラリーマンらしき、上司と部下の二人組に、田木さんと話している一人飲みオジサマは、親バト会の方だ。私も軽く挨拶を交わした。
「ニコちゃんが男の人を連れてくるなんて、珍しいね。彼氏さんかい?」
おしぼりを持った田木さんが、目を丸くして訊ねた。
「ええと、彼は……」と答えあぐねていると、「昨日からニコの部屋に住んでいる」と天使が私の代わりに堂々と答えた。
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