第14章 濡風

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カラン。 ドアのベルが鳴って現れたのは高村颯。 「なんだ、今日は一人か?」 カウンターから半次郎の声がする。 「悪ぃかよ、一人で。」 仏頂面で、カウンターにドサリと腰を下ろす。 「ランチ一つ。」 「あいよ。」 半次郎は、水の入ったグラスを颯の前に置いた。 「なに?もう、喧嘩したのか?葉月さんと。」 無言のまま、肘をついて顔の前で手を組んでいた颯が、 ギロリと半次郎を睨みつける。 「お~~、おっかねぇ~~。」 おどけたように軽く笑うと厨房に引っ込んだ。 「ごちそうさん。」 空になった皿を前に、颯の刺々しい気持ちもおさまっていた。 「で?」 コーヒーを二人分淹れながら、絶妙なタイミングで 聞いてくる半次郎に、颯も話してみようという気になるから不思議だ。 「別に、喧嘩なんかしてる訳じゃないんだが、  なんか避けられてるような感じがする。」 「二人っきりになるのを?」 「いや、デートはしたけど、その後が・・・」 「はぁあん、触らせてもらえないと。」 何が頭の中に浮かんだのか、颯が赤くなる。 「なんだよ、そうゆうわけじゃ・・・」 「キスは?」 ストレートな半次郎の質問に、ますます赤くなる。 「キスまでは、OKだが、その先はダメってことか。」 肯定も否定もせずに、そっぽを向いてしまった颯を 笑いをこらえて半次郎は上目づかいに見る。 火をつけない煙草を指で持ちながら、この場を楽しんでいるようだ。 からかわれるのはしかたねぇか。 あきらめた颯が、話し出す。 「オレ、なんかまずいことしたのかと思って。」 「心当たりあるのか?」 「いや・・・特に・・・」 「無理やりじゃねえだろうな。」 「当たり前だ!ちゃんと、声だって・・・」 口を手で覆いながらますます赤面する颯を これ以上見てられないと半次郎の笑い声がくくっと漏れた。 「わかった、わかった・・・」 ジロッと睨むと、 「お前なら、女の扱いには慣れてるだろうし、こんな時、どうしたらいい?」 「失礼だな。慣れてるんじゃねぇ、 その度に、真剣なんだよっ! 俺はっ!」 むっとしながらも、横目で真剣な颯の様子を見て、笑う。 「簡単だろ、そんなこと。」 じっと見つめる颯を、軽く諭すように身を乗り出す。 「本人に聞いてみるのが一番だろ。」 「・・・・」 颯は、何も言わずにコーヒーをすすった。
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