第14章 濡風

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ぶるぶるぶる・・・ 激しい雨の音で、ライトが点滅しなければ 分からなかった携帯を葉月は手に取った。 「高村君?」 「まだ、学校いんのか?研究棟、電気ついてるから。」 「うん。今終わったとこ。 あ!もう、こんな時間なんだ!高村君は?」 「もう、帰るんだろ。下で待ってる。」 そう言うと、返事も待たずに電話が切れた。 葉月は、広げていた資料をバタバタと片付けて帰り支度をすると、 研究室の鍵をかけて、階段を下りた。 建物の軒先で、ウインドブレーカーの上下を着て リュックを肩に待つ颯は、部活の帰りのようだった。 「飯食ったのか?」 「え?うん、おにぎり食べたよ。高村君は?」 「ああ、部の奴らと食べた。お前、こんな時間までやってんのか?」 「来週の研究発表の準備で。あ、でも、今日頑張ったから、大体は、終わったよ。」 嬉しそうに笑う葉月を、呆れたように見る。 「この雨ん中、どう帰るつもりだったんだよ。もう、バスも少ねえだろ。」 さっきから、大声で話しているのは どしゃ降りの雨と風の音のせいだ。 時計は、夜の9時を回っていた。 葉月のアパートまで、晴れていれば、自転車で20分ぐらいの距離だ。 歩いても、30分あれば着くだろう。 雨足は、おさまるどころか、激しくなってきている。 「行くぞ。」 歩き出す、颯の背中を追った。 外に出たとたん、スニーカーは中まで濡れてしまった。 横なぐりの雨に、傘はほとんど役に立たない。 葉月は、バッグを胸に抱えるように歩く。 中の資料が濡れてしまわないように。 そのすぐ前を、風の盾になるかのように颯が歩く。 バス停で、次のバスが30分も先なのを 確かめて、再び歩きだした。 途中の信号で、気づいたように颯は葉月のバッグを持つと、 ジャケットの前を開けて、濡れないように中に包み込む。 「大丈夫、自分で持つから。」 「いいから。ちゃんと前みて歩け。」 さっき、つまずいて転びそうになったの 気づいていたんだ。
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