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開いた小説の上で綴られた文字も、どこか読まれる事を避けている様な
錯覚に陥る。
ゾクゾクと耐えられない衝動が、ドクドクと脈を打ち、足元から虫みたいに
這い上がって来る様で、無視したいが、いてもたってもいられず、
席から無心に逃げ出す。
少女がこうなる時、いつも唯一の避難場所は、トイレの個室だ。
ここでも、一番奥が所定の位置。律儀に区切られたこの空間が、何もかもを
洗い流してくれる。
ただ、じっと。きっと誰が入って来ても息を潜め、悟られない自信があった。
この場合、盗み聞きになるのか、同学年の会話に聞き耳を立てる事もある。
「この間のテスト、どうだった?」
「手応えなんて何もないよ。どうせ、内申だって決まってるし、今さらでしょ」
「まぁね。それに、どうせまた、口無しのアマが一位なんだし」
どんな風に、自分が見られているかなんて、本当はとっくに知っていて、
でも、どこかにわずかでも変わったかもしれない、変わろうとしている
気持ちの移ろいを期待していた。
浅はかな思い過ごし。場違いな勘違いを鼻で笑ってやりたかったが、
それさえやり方を忘れていたくせに、涙だけが面白いぐらいに後引くアドリブで
零れ落ちて、深い傷から出血を帯びたみたいに、いつまで経っても止まらない。
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