一、無音のイントロダクション

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 少女にとってオープンキャパスは、言わばポーズでしかなかった。 誰にアピールする訳でもなかったが、自分は常人であると、 そう強く言い聞かせる為の、ささやかな反抗的態度だったのだろう。  すでに大学への進路は決めていた。と言うよりも、決められていた。 エスカレーター式で労せずしての進学と、所謂、国内名門大学への二者択一。 例外として、海外留学を兼ねた進学と言う道も候補には挙がり、 いずれに於いても、クリアは十分可能であった。  だからこそ、生きた心地がしなかった。実感ではなく、あくまで心地。 身体はそこにあっても、心は地に着かぬままに歩かなければならないのかと。  現実からの逃走。言わばこれは、自分探しの暴走であった。 両親に今日の事は秘密にしておこう。意味のない行為を嫌うだけに、 名目は見学でも、そこに何らかの意思がなければ、足を運ぶ意味はない。 ましてやそれが、二流大学ともなれば、理解は到底不能だろう。  そこはまさに騒乱にも似た、ソーラン節か、よさこいか、お祭り騒ぎに、 眩暈がしそうだ。在学生たちが出し物を見せたり、サークルに属する生徒は、 すでに勧誘に余念がない。見るもの聞くもの全てが予定外。 少女にとっては異国の情景だった。
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