一、無音のイントロダクション

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 自分と歳の変わらない男女も、きっとそれなりにそれぞれ毎日が 惚れ惚れする程に充実しているのだろう。  それが普通で当たり前なのかもしれないが、少女には、色も音もない日々が スタンダードなだけに、鼓動はスタッカートになり、五感が怯えて不安だと、 一体どんな態度をすれば良いのか。戸惑いに手足は冷たく震えていた。 それと同時に、胸の奥底は熱く震えていた。 「こんにちわ! 私たち、演劇サークルやってるんですけど、もうすぐ オリジナルの演目が始まるんで、興味があったら、ぜひ観に来て下さいね!」 無意識にチラシを受け取り、その勢いに押し負け、無愛想に頷くのがやっとだ。 「あっ、どーも・・・。えっと、僕たち漫研なんですけど、例えばマンガとか アニメに興味ありますか? ついでにコスプレなんかも」 会話のやり取りを、点と線で繋げる連続性がないといけないと思えば思うほど、 レントゲンでも見えない、言葉の欠片一つも出て来ない。  タチの悪いクセなら可愛いげもあるが、物心ついた時から、その場面に 直面すると、決まって息苦しくなってしまう、病的なまでの人見知り。
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