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丸めた身体を小刻みに揺らしながら、時折、天を仰いでは、何かを呟く。
そこから一気に、書き殴る勢いで握ったペンを走らせる。
独特なその男の動きに、少女は目が離せなくなっていた。だからと言って、
何かを話せる訳もなかった。ただ、不思議と夢中に釘付けになって、
そこから動けなかった。
その物言わぬ熱視線に、微かな気配を察した男が、少女の存在に気付くと、
余所余所しそうな照れ笑いで繕ってみせる。
「いや、残ってる場所、ここしかなかったんで。別に、俺一人だし」
直感で警戒心を覚えたのだろうか。遠慮がちに開き直った男は、右に左に
目を伏せながら、立ち上がった。
それに、適当な切り返しも出来ず、少女の方はただただ一点を見つめ、
無言で直立したまま。
絶妙だが、微妙に間の悪い空間で、先に耐えられなくなったのは、男の方。
深めに被った黒のニット帽を少し上にズラすと、少女への話題を探り出す。
「君、制服って事は、オープンキャンパスで来たんでしょ? 違うの?
あれ、それとも、もしかして迷っちゃったとか?」
正解と言えば間違いはなかった。ただ、純粋にそうでもなく、そうとでもあり、
それとなく、何となく細い首を斜めに頷いた。
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