一、無音のイントロダクション

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 ともあれ、その優柔不断なリアクションでも、ホッと安堵した男は、 少女へと近付いて来た。悪気はないが、少女は後ずさる。 「ここ、真っ直ぐ行って左に曲がれば、裏門の方には出られるから」 背後を指さし、今、来た道の向こう側。どうやら、男は迷子と言う事で、 自己完結したらしい。  指し示す言葉に、うんもすんもなく、少女は言われるがままに、 おざなりな道を歩き出す。 否定も肯定もせずに、ここまでこうやって流されて来ただけに、同じく、 疑いも抵抗もなかった。 「何か、ついでって言うのもあれだけど、せっかくなんで、 もし良かったら、これ」  背後から、気まずそうな男から声を掛けられると、その右手には、ハガキより ちょっとだけ大きなチラシが、少女に差し出されていた。 字とイラストでゴチャゴチャと、見るからに手作りで刷られた猥雑な内容に、 すぐには思考が追い付かなかった。  まさに、意味などない。受け取る必要もない。ただ、断われる術もない。 恐る恐る、仕方なく左手でそれを受け取ると、軽く頭を下げ、二度と振り返らず、 少女は足を早めて立ち去った。
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