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ともあれ、その優柔不断なリアクションでも、ホッと安堵した男は、
少女へと近付いて来た。悪気はないが、少女は後ずさる。
「ここ、真っ直ぐ行って左に曲がれば、裏門の方には出られるから」
背後を指さし、今、来た道の向こう側。どうやら、男は迷子と言う事で、
自己完結したらしい。
指し示す言葉に、うんもすんもなく、少女は言われるがままに、
おざなりな道を歩き出す。
否定も肯定もせずに、ここまでこうやって流されて来ただけに、同じく、
疑いも抵抗もなかった。
「何か、ついでって言うのもあれだけど、せっかくなんで、
もし良かったら、これ」
背後から、気まずそうな男から声を掛けられると、その右手には、ハガキより
ちょっとだけ大きなチラシが、少女に差し出されていた。
字とイラストでゴチャゴチャと、見るからに手作りで刷られた猥雑な内容に、
すぐには思考が追い付かなかった。
まさに、意味などない。受け取る必要もない。ただ、断われる術もない。
恐る恐る、仕方なく左手でそれを受け取ると、軽く頭を下げ、二度と振り返らず、
少女は足を早めて立ち去った。
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