一、無音のイントロダクション

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 家に帰ると、自分の部屋がやっぱり一番居心地が良く感じられた。 その中でも、机の前に座るだけで、何だか癒されてしまう。  広々としてるだけで、物も少なく、色味もなく、ただ殺風景なだけの 空間で生きていれば、あんなに冷や汗をかいて、知らず知らずのうちに 追い込まれもせず、淡々と安全に時間を消化出来る。  リスクはなるべく回避して、自分を自分のタイミングで殺したのなら、 傷もつかずに、もうこれ以上、死に直面する危険は訪れないのだから。  通学路には、少女の頭の中で、あらかじめ赤い線が記されていた。 同じ路、同じ電車、同じ車両、同じ風景。寸分もそれらをはみ出す事なく、 ただ、実直になぞればいいだけだ。  物足りないなんて、贅沢な戯れ言だと、ましてや、そこから抜け出そうなんて、 愚行以外の何物でもない。  昨日の一日を、記憶の奥深くに無理矢理仕舞い込んで、再び少女は、 寡黙と馴れ合いの日々を生きると決めた。  形だけのクラスメイト。揺らす映像に、増やすグレーゾーン。 周りのみんなは、自分と言う人間が、どんな顔に見えているのだろう。 そもそも、ここにいると言う事さえ、見えていないのかもしれない。 役割がないのならば、空気よりも重いくせに、価値はない。
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