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◇◇
楓にずっと見せたかったラウンジの光景をやっと見せることが出来て。けど、そうなると蓮がピアノを弾いているラウンジには当然あの人もいるわけで。
…今日は絶対手を離さない。
バーを出てから、ずっと繋ぎっぱなしの手を楓がどう感じているかはわからないけれど、何となくでも、伝わればいいなって思ってた。
ラウンジであの人と挨拶をしてホテルを出た所で、あの人と俺が挨拶をした辺りからどうも神妙な顔つきになっていた楓が立ち止まる。
ああ…やっぱり少し憂鬱にさせちゃったか、なんて思った俺は浅はかだった。
いつもの真っ直ぐ真剣な眼差し。それが俺だけを写していて。
「私、もっと頑張るから。」
楓の口からまさかの言葉。
この反応…笑うしかないじゃん。嬉しすぎて。
どうしろって言うのよ。
ホテルに逆戻りして、部屋に連れ込む?って位、一気にテンションが上がったんだけど。
や、まあ…ね?
ホテルの前だしさ…。
ゲストを迎え入れるために、外に立ってた先輩のベルボーイに思っきし見られてたけどね?
いいんです、そこは。
もう、仕方ない。
寧ろ、キスでとどめた俺を褒めてくれと勝手に自己満足に浸りながら、顔を真っ赤にして口をパクパクしてる楓を引っ張って連れて行った先の霧島颯天のアトリエ。
見せてもらった楓の絵は、確かにもの凄く綺麗だった。
まあ、『モデルやらない?』なんて誘ったくらいだから、楓の『綺麗』を理解してるんだろうとは思ったけどさ。俺だって、そんなのいくらでも知ってるっつーの。
なんて、感動して涙を流す楓の反応が面白くなくて楓が困るのわかってて、「モデルはやめろ」なんてつい言ってしまう。
「ねえ、何でモデルやったらダメなの?」
「あー…だからね?あっ!ほら、ミキホちゃんとこ着いた!」
何度も聞いてくる楓を誤魔化しつつ、やっといつもの古着屋に到着したけど。そこでずっと繋いでいた手がパッと離された。
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