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それは、青空がどこまでも続く、4月上旬の快晴の日だった。
大学構内のずっと奥。人気があまり無い丘の上へとやって来た。
目的は、そこに佇む一本の大きな桜の木に会うため。
期待に満ちた足取りはより私を逸らせ、その姿を視界に捉えた時には少し息切れをしていた。
「…すごい。」
思わずハッと息を飲む。
その位、自分の想像を遥かに越えた、薄桃色の景色が広がっていた。
枝を撓らせんばかりに花を咲かせる桜の木は強めの風に吹かれ、それ見たかと言わんばかりに無数の花びらを舞い散らせる。
別世界へと誘う様な幻想的な光景にただただ圧倒されて、暫くその景色に見惚れていた。
◇
大学見学を兼ねて学祭にやって来た去年の秋。
あまりの人の多さに酔ってしまい、休める場所は無いかと人ごみの無い場所を探していて見つけた旧校舎裏のちょっとした上り坂。何となく気になって登って行ったら、現れたのがこの桜の木だった。
樹齢何年位だろうか。私の両腕で囲うにはあまりにも足りない程太い幹、方々に伸びやかに広がる枝…。天に向かって高々と伸びるその出で立ちに、一瞬で心を奪われた。
”この桜が満開なった姿を見てみたい”
自分のレベルではかなりの勉強が必要ではあったけれど、何としてもこの大学に入りたいと、猛勉強をした結果、何とか『合格』を手に入れる事ができた。
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