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「……。」
口を不服そうに尖らせて、けれど怒っているというよりは本当に困っているんだろうなって思うほど、目が潤んでる。
俺が「やるな」って言ってるのを無下には出来なくて、でも自分はやりたい。
本当に、素直というか…大事にしてくれるよね、俺を。
…小っさいこと言ってないで、この辺で折れるか。
膨らみ気味の楓の両頬を指でつまんだ。
「…まあさ、楓がやりたいならやれば?」
「へも(でも)、ふふははっへほひふはいんへほ?(悠はやって欲しくないんでしょ?)」
…いや、それは申し訳ない。俺の勝手なヤキモチなので。応援はします、いくらでも。
「じゃあ、楓?俺の好きな所100個言ってみようか。そうすれば気が変わる。」
「ひゃ、百個?!」
「…言えないの?」
「い、言えるよ?えっと…」
目を白黒させて、指折り数え出した楓に頬が緩む。「まあ、ゆっくり考えて?」と頭をポンポンと撫でて、その手を再び握り、店に入った。
「いらっしゃーい!待ってたわよお!」
店の奥のレジまで進むと、俺たちを見つけたミキホちゃんが最初に出迎えてくれる。
「お、悠!久しぶりじゃん。」
その奥から、葵さんもひょっこり顔を出した。
隣には、仏頂面のチコちゃんの姿。目が合った瞬間、あからさまにフイッとそらされる。
「気にすんな、少し経てば、戻るから。」
接客に向かう葵さんが俺の横を通り過ぎながら肩をポンと叩いた。
「楓ちゃん!ちょうど良かったわ。ワンピース、また似合いそうなの入荷したのよ。」
「…え?ワンピー…無理!ムリムリ!って、あれ?ミキホさん、こんにちは…ってえ?え?」
ミキホさんが未だに心ここにあらずだった楓をそのまま奥の試着室へと連れ去る。
残された俺とチコちゃん。
背中から「チコちゃん?」と名前呼んだら、肩がビクっと跳ねて振り返った。
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