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◇
本当に良かったな…入学出来て。
桜の木の目の前まで来ると、その幹に手を触れさせる。
サアア…
またその枝を揺らして景色を彩る桜の木を見上げて、枝と枝の隙間から零れ落ちる光に少しだけ目を細めた。
その瞬間
幹の反対側で、人の気配と微かな物音がして、思わず肩を揺らした。
人が…居たの?
咄嗟に幹から手を離して一歩後ろに退いたと同時に幹の反対側から、身体半分だけ現れた。
フワリとしている短髪の黒髪。長めの前髪が、少しだけ大きな目を隠している。
男の人…だよね。
潤い多い黒目のその人は、一瞬性別を疑う程にスッと通った鼻筋が美形を際立たせている気がした。
「ふーん…俺以外にもこんなトコに来る奴いるんだね。」
胡座をかいたまま、変わらず上半身だけ振り返り、私を見上げるその人。弧を描く口元にぽこんとエクボが出来た。
「残念。折角、サボる穴場見つけたって思ったんだけど。」
その姿が妙にこの景色にマッチしていて、自分がここに居る事が邪魔なのではないかと思い、居たたまれなくなった。
「す、すみません、お邪魔して!」
「え?や、別にさ…ってちょっと!」
「それじゃあ!」と深々お辞儀をすると踵を返し、駆け足で坂を駆け下りる。
あの人…ここの大学の人かな…。
鮮明に脳裏に焼き付いている、薄桃色の景色の中のあの人の笑顔。
ドキンドキンと強く跳ねる鼓動に思わずごくりとツバを飲んだ。
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