柔らかな君・上

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「自分のことしかしない。暇でも手が空いてても。他の人が頼んだ雑用はノラリクラリかわして。だから万年、平なのに。妬まれたって知らないわよ。変われるもんなら、役職なんざくれてやる」 そんなガラクタみたいなプライド、切り刻んでゴミの日に捨ててしまえ。 …悔しかったのは、それが、入社時の研修期間、世話になった先輩社員だったからだ。 眼を見ていられなくて、胸板に額をつけた。 眼を合わせれば、情けない自分の面が見えるから。 ――ああ、嫌だ。 額に暖かさを感じながら、再び心の内で呻いた。 だから、嫌なのだ。 可愛くないくせに。 柔らかくもなければ癒し系でもないくせに。 私の強張(こわば)った気持ちをこうも簡単に解いてしまう、つい頼ってしまいたくなる、この胸が。 愛しくて、嫌になる。 .
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