第1章

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 科学部の一行は井戸に着くと、それを取り囲むように立っていた。これが林田の作った物だと思うと不思議な気分になる。それだけ風景に馴染んでしまっていた。 「あの、これって下が防空壕だった場合は大きな空洞があるってことですよね?これだけの人数が乗っていて大丈夫ですか?」  桜太はふと心配になって松崎に訊いた。 「そうねえ。でも、この井戸もどきが出来て以来一度も崩れていないわけだし、問題ないでしょう。それにあんたたち、一回ここに来てるんでしょ?」  松崎は井戸の側面をぺちぺちと叩きながらそんなことを言う。たしかに前も崩れていないし、井戸が出来て以来何もなく過ぎている。しかしそれは安全の保障になっていないのだ。桜太はそっと後ろに一歩下がっていた。 「コンクリート製か。いい出来ですね」  松崎はそんなところを褒めている。今は井戸の出来栄えはどうでもいい。 「いやあ、ありがとうございます。一人で頑張った甲斐がありますよ。それに俺が色々な機材を置いたりしても大丈夫だったんだから、これ以上の崩壊はないでしょうねえ。変な穴なんですよ」  褒められた林田は嬉しそうにもさもさの天然パーマを揺らした。白衣を着たままここにやって来ているので、何だか変な男となっている。白衣を着た井戸職人なんていないと桜太は思ってしまった。 「取り敢えず中を確認しましょう」  楓翔は前回と同様にさっさと上に載っていたトタンを外した。すると、ぴょんとカエルが一匹飛び出してきた。 「うわっ」 「あっ、待て」  飛んできて驚く迅とは対照的に芳樹の反応は素早い。飛び出たカエルを野球選手も真っ青のスーパーキャッチで捕まえた。 「さすがは芳樹。カエルに対する反射神経は抜群だな」  亜塔は変な褒め方をしているが、これは科学部では最大級の褒め言葉だ。好きなものに対する情熱を周りに認めさせれば一人前という認識だからだ。
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