第1章

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「やあ、科学部諸氏。もうお集まりとは感心だ。少し実験に手間取って徹夜だよ」  林田が眠そうな目をしながら現れた。今日も天然パーマはもさもさ揺れているし、ファッションはオタクっぽい。どうしてチェック柄のシャツを選んでしまったんだと突っ込みたくなる。しかも実験をする理系としては仕方ないが、ズボンにきっちりそのシャツが入っている。それにリュックサックだからそのまま秋葉原に行けそうだ。 「新堂。覚悟を決めろ」  そこに松崎の怒鳴り声がした。見てみると優我が松崎に首根っこを掴まれている。 「お願いです。フィールドワークだけは勘弁してください」  優我は本を抱きしめて嫌だと訴えていた。どうやら図書室で遅刻をしようと画策していたところを捕獲されたらしい。みんなが諦めて出発してしまえばさぼる口実になるということだったのだろう。 「これが部活だ。それを目指してるんだろ?諦めろ」  いつになく顧問らしさを発揮する松崎だが、口調がどうして体育会系なのか謎である。それにしても自分の興味になるとやる気を発揮するのは教師も同じとはどういうことだろう。  実は桜太も遠足気分でありながら行きたくない一人だ。やはり暑いのは苦手である。できれば化学教室の中で本を読んでいたい。なので嫌だと訴える優我には同情してしまった。 「田んぼの傍に行くのって初めてだな」  そんな同情的な人物がもう一人。遠い目をして呟いている莉音だ。どうやら今回は物理系に出番はないらしい。桜太は莉音も嫌そうなので安心してしまった。 「よし。それでは諸君、出発だ」  出番なしを決め込んでいる桜太に代わり、前部長の亜塔がそう号令を掛けて出発と相成った。科学部一行はのりのりの亜塔と楓翔、カエル確保のために行きたい芳樹に林田と松崎が続き、松崎に引きずられる形で優我が続く。さらにやる気が不明の千晴と迅が続き、最後に行く気の薄い桜太と莉音が続いていた。
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