第1章

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「へえ。森が邪魔で見えないけれど、田んぼって近かったんだ」  歩いてすぐに見えてきた水田に桜太は感想を漏らす。実は桜太も学校の水田側には来たことがない。駅やら店がある発展した地域にのみ用事があるからだ。 「向こうに山も見えていて田舎だな。俺たちって意外と自然に恵まれた環境で勉強してるんだな」  横にいる莉音も呑気な感想だ。出番がないとなると、途端にこうなってしまうのも科学部である。興味が一方向に極端なのだ。 「いやあ、水があるから涼しいねえ」  呑気な感想を漏らすのは林田も同じだった。徹夜明けの身体に真夏の日差しが当たっているせいだろう。ちょっとテンションが低くなっていた。しかしもさもさの天然パーマは盛大に涼しい風を浴びて揺れていた。 「本当だ。予想していたより涼しい。そうか、気化熱か」  暑さが嫌だと主張していた優我は水田の風を浴びて生き返っていた。ここですぐに気化熱が思いつくのが科学部である。よく打ち水をすると気温が下がるというのも、この気化熱のおかげだ。だから水のある水田の近くも涼しいわけである。 「この辺が丁度井戸と直線になりそうですね」  学校の森が見えるところに来ると、楓翔が学校の見取り図と周辺地図を照らし合わせていた。そこには用水路があって、水の流れがたしかに存在する。 「そうだな。ちょこっと見える北館からしてもここだな」  亜塔は潜っての調査はないと判断してヘルメットを脱いだ。用水路の推進はひざ下くらいといったところである。ただヘルメットを被ってみたかっただけかと周りは突っ込みたくなるが我慢だった。 「ここから先は開発する気がないのかな。何だか日本の原風景が残っている」  井戸問題とは関係のない呟きは迅のものだ。どうやら彼もまた嫌々だったらしい。 「そうね。久々にアニメ映画が恋しくなる」  これは千晴の感想である。彼女も無理やり来ていたのだ。本当に結束力がない。それに何の映画が見たいかは訊くまでもないだろう。あのふくろうみたいな妖精が出てくるやつだ。
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