第1章

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「何だ、それ?」  この質問はいつの間にか合流していた迅のものだ。 「釣りに使う浮だよ。これを流して井戸まで着くか検証する。浮ならば井戸から確認できるしね」  楓翔がにんまりと笑う。 「よっ、ナイスアイデア」  亜塔がそう声を掛けたので全員が拍手を送っていた。周りから見ればさぞかし変な集団だろうが、幸いなことに誰もいなかった。こんな暑い日差しの中田んぼで作業する農家さんはいないらしい。 「それじゃあ、それを流して学校に戻りますか」  外での弁当はなしかと残念な桜太だが、暑さに負けそうなので構わなかった。やはり水田の傍で涼しいとはいっても、八月初旬だ。日差しは容赦がない。 「そうね。水の流れからして一時間もあれば着くでしょう。奈良井、帰るよ」  松崎はまだカエルを捕獲している芳樹を呼んだ。 「えっ、カエルがいたんですか?」  見事な聴き間違えをする芳樹に、桜太たちは大笑いだ。こんな古典的な展開があるだろうか。 「ゴーホームのほうだ、馬鹿者」  呆れた松崎が英語で言い直し、さらに笑いに包まれた。  さて、井戸に浮が流れ着くまでに弁当タイムがあったのだが、この日の桜太の弁当は―― 「おうっ、母上」  菜々絵の揚げ物愛の凄さが桜太の作戦を上回っていた。何と外でも食べれるようにとおにぎりなのだが、具材が天ぷらだったのである。 「天むすかあ。いいなあ」  林田もちゃっかり化学教室で弁当を食べつつ、そんな呑気な感想を漏らしていた。
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