ギャンブラー綺譚

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その後、第7レース、第8レース、第9レースまで、全てが的中と言う結果だった。 「こ、これは本物だ、フフフ」 僕は競馬場内の展望レストランで、名物味噌カツを貪りながら、疑心を確信に変え、これからまき起こる勝利に喜び、打ち振るえた。 「フフフ、フハハハハーッ!」 間もなく第10レースが始まろうとしていた。 連戦連勝の結果、僕の所持金は50万円を超え、その殆どを次のレースにつぎ込んでいた。 窓際の席からはターフの全てが見渡せた、ビールの入ったグラスを口に持ってゆく、大勢の観客を見下ろす、美酒に酔いしれる、今、静かにゲートが開いた。 「勝利に、乾杯」 僕はパドックに向かっていた。 第10レースの配当金200万円を全て第11レースにつぎ込んで、レースの行方は見届けなかった、結果は分かっているから、これまで通りまた的中さ、なにしろ、ギャンブル神の加護があるのだ、見るまでもない、興味は既に最終レース、ナツキララ、そうナツミの最後のレースを勝利で飾ってやる事でいっぱいだった。 フフフ、大丈夫さナツミ、僕が勝利をプレゼントしてあげるからね。 含み笑いが堪えられず、高らかに笑い声を上げて歩いていた。 「ナツミちゃん、いるかな~」 その時だった、第11レースの結果を告げる場内アナウンスが耳に入った。 「只今のレース、一着8番イビリスター、二着12番ナイスレビュー、三着、、、」 「!」 「嘘でしょ」 僕は体が凍り付いたように動きを止めた、うろ覚えの購入馬を確かめるために、震える手で11レースの馬券を財布から抜き出す。 それを見て、顔が真っ青になった。 ハズレた。 200万円の馬券はただの紙となった。 う、嘘でしょ、なんで、なんでハズレるの、何これ、ど、とうしよう。 パニックになった、ハズレるはずが無いのにハズレた、なんでか意味が分からなかった。 「え、ええ、え」 僕は泣き方すら分からなくなったのか、変な声を漏らすだけで、その場に立ち尽くす、頭の中でリフレインするのは、嘘だ、その言葉だけだった。
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