ギャンブラー綺譚

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最後の出走馬がゲートに入った。 そして今、ゲートが勢いよく開かれた。 群衆の期待と不安は渦を巻き、それはやがて一つの波となり、その波に押され、馬達は走りだす。 上手くその波に乗るモノもいれば、押し戻され、もがくモノもいる、そのまま飲み込まれてしまうモノ、恐怖心に駆られ溺れてしまうモノ、それでも逆らい果敢に抗うモノもいる。 「ん~ぉらぁ~っ」 「行っけーっ、ナツミ~!!」 今僕が彼女に出来ること、それは応援しか無い、僕は力の限り、死ぬ気で声を出した。 「行けっ、行けっ、行けーっ、ナツミ~」 「気張れっ、気張れっ、気張れやぁ~っ」 「ナツミーっ」 そして競争馬が、競争馬として生まれた真価が決まろうとしていた。 四頭が入り乱れるトップグループの中にナツミの姿があった、真剣で鬼気迫る程の走りは、僕が初めて見るナツミ、いやナツキララ、気合いの走りだった。 ゴーーール! 四頭がほぼ同着、結果は写真判定に委ねられた。 静まり返る観客達、僕は息を呑むのも忘れターフビジョンを見上げたまま静止した。
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