ギャンブラー綺譚

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彼女達は3日と言っていたが、もう5日風呂に入っていない、だから髪の毛も洗ってない。 服装も同じ、下着も靴下も同じ、全く着替えてないからだ、歯も顔も洗ってない。 これでは皆に嫌われるのも当たり前の事、当然だよ、僕自身分かっている、僕だって好き好んでこんな、不潔で、体中痒くて、髪の毛だって薄くなってきた気がして、皆に気持ち悪がられるような事、やってる訳じゃ無い、でも止める訳にもいかないんだ、 せめて今日1日、明日、彼女が走り切るまでは。 その日は梅雨の合間だと言うのに、朝から晴れた夏空に気温はぐんぐん上昇して、午前中から30度を上回った、悪いことにオフィスのエアコンの調子も悪く、蒸し暑い室内に異臭が漂い始めた。 その臭いは、腐らせた安い肉と獣嗅とが消臭剤の香りと混じり合って、なんとも気色の悪い悪臭を醸し出していた。 皆黙っていた、分かっているけど指摘しない、誰もが顔を歪め、遠い眼で臭いの元を見やるだけ、そう僕の事を。 ううう、ヤバいかな、どうしようかな。 いい加減、開き直るのにも限界を感じたそんな時、誰かから苦情を受けた警備員さんがオフィスにやってきたのだ、どうやら悪臭は外にも漏れて被害は拡大していたらしい、事態は大事になり始めていた。 「うっ、くっさ、なんだこの臭いはっ」 オフィスに入るなり警備員さんは遠慮無く言った。 「だ、駄目だ、換気をしますので排煙窓を開けます」 そう言うと、壁に付いた非常用の排煙ボタンを力いっぱい押した。 するといつも開くことの無い窓が、ガラララと音を立てて外に向かって開き始めた、清涼な外気が入る、色こそ無いが悪臭が出て行くのが分かった、皆が生き返ったように笑みを取り戻したから。 僕はその隙に席を立ち、社を出て外をあてもなく進んだ。
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