ギャンブラー綺譚

6/14
前へ
/14ページ
次へ
「うーむ、なにしろワシ、ギャンブル神の通り名がつくくらいじゃからな、フォッフォッフォッ」 そうか、おじいさんもギャンブラーなのですね。 「さて、時にギャンブル狂の若者よ、その熱心に渇望する願いとは、なんぞや、何故に勝利を欲する、申してみよ」 そうですね、こんな話を人にするのは初めてだけど、僕はおじいさんに打ち明けた、どこか本当は話したかったのかも知れない。 「僕の生まれは、北海道で、父さん母さんとちょっとのお手伝いさんとで、小さな牧場を営んでいました、そこには食用の牛と豚が多数いましたが、僕が小学校四年生の頃、一匹の仔馬がやってきました、名前をナツミと父が付けました、当時は分からなかったのですが、ナツミは競走馬にするために連れて来たサラブレッドの仔だったのです。 でも当時、僕はただの小学生ですから、その仔馬を可愛がり、お世話をしました、暫くすると乗馬も覚えました、田舎では、馬が重宝しましたよ何しろ北海道ですからね、僕とナツミはどこに行くのも一緒で、とても仲の良い友達でした。 でもそんなある日、僕が中学生ナツミが3歳になる頃でした、ナツミの買い手が見つかったのです、ナツミは本物の競走馬になるために、実家を出て行ってしまったのでした。 僕は寂しかった、寂しかったけど、ナツミは殺処分される訳じゃないし、これから頑張って貰いたいと思う意味で、僕はナツミと決別したのです。 そして大人になって彼女の事を忘れてしまっていて、会うことは無かったのです、あの日までは」 鳥が奇声をあげて飛び立った。 猛暑日になろうと言うのに、杜の中は妙に涼しくて、ここが東京だと言う事を忘れる、少し喉が渇いたが、僕は話をつづけた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加