悪食娘

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 日が暮れる 永い夜が来る 赤く染まった夕焼けは、夜の闇に沈んで行った 「っアグリさん!!」 「っ」  体が前のめりに倒れる 崩れ落ちるその瞬間を、誰かに引き止められた 伸ばした手に赤い髪が触れて、すり抜けて行くのが見える 「…え」  その瞬間 視界からカンナの姿が無くなった 代わりに、眼下に真っ赤な花が咲いていたのが分かった 地面に叩きつけられ咲き乱れるそれは、あの花壇に咲くはずの花で 桐人が愛でていたものだった 「…あ」  伸ばしたままの手が震える 掴むはずのものを見失ったそれは、真っ暗闇に溶けた 「…アグリさん」  耳元で声が聞こえた 何時も、肝心な時になって現れる彼の声だった 「っくそ!!」  震える手を握り、思いっきり鉄柵を殴りつける 「…っなんで」  がん 「…っなんで」  がん、がん 「…っなんで」  何度も鉄柵に拳を打ち付けるアグリ だんだんと、その手が赤く染まって行く 「…っなんで…」  握り締めた拳を、もう一度振りかざそうとした時 その腕を聖四郎が止めた 「…もう、これ以上は…」 「…っ」 「手当します。中に戻りましょう」  言われ、アグリはむせ上がる物をなんとか沈める 聖四郎に握られた手首を振り解き、視線を逸らした  その時 「…っ」  目についた黒色 群れる群衆の中の漆黒と赤 葬儀はこれからなのに彼女だけ喪服姿でそこにいた  瞬間 聖四郎はアグリから感じる冷気にはっと気づく 何処までも冷たく、凪いだ殺気 その視線は、眼下の女に注がれていた
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