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アグリの纏う空気の変化に徐々に周囲が気づいて行く
特段、彼女の仕事に支障が出ている訳では無い
疲れが顔に出ている訳でも
言動に明らかな不審点が在る訳でも無い
唯
彼女の纏う空気が恐ろしく静かになる時が在った
まるで殺気を隠す様な
消え入りそうで、幽かで在るのに感じるそれは冷気の様に流れていた
そんなある日
アグリはまた何時もの様にあの路地に足を運んでいた
既に日課の様になって仕舞った行動
赤黒く染まったコンクリートの壁は今日も変わらない
手掛かりは三つ
一つは相手が喪服姿の女だと言う事
二つ目は彼女の武器が斧だと言う事
三つ目に彼女が稀ビトで在ると言う事
三つ目に関して言えば、これは完全にアグリの勘だった
円日から聞いた情報を元に、彼是(あれこれ)と考えた結果
彼女が求めているのは稀ビトの肉
稀ビトそのものに興味がある可能性もあったが、カンナの記憶から殺されかけている所や相手の言動を分析してみると自ずと答えは出た
女が求めているのは「食材」
稀ビトの屍肉だ
故に
桐人の骸は此の場所に残された
彼女が唯の人喰いなら彼も胃袋に収めても可笑しくは無い
それこそ、以前の火車の様に
しかし
相手はご丁寧に桐人を殺したまま此の場を去った
彼の骸に興味がないからだ
女の目的は稀ビトの血肉
己が喰らう為にそれを求めている
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