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実に
気分が悪くなる話だった
見ず知らずの気狂(きちが)いな女の食事の為に桐人は無駄に死ぬ羽目になった
そんな彼を知って今度はカンナが壊れた
一人の存在が
二人を殺した
それが彼らの業と言うなら
桐人が犯してきた罪に対する罰と言うなら
それで構わない
けれど
では、カンナの罪は何だ?
桐人を愛したことか?
彼の罪を受け入れたことか?
その罰が、彼女から桐人を奪うことか?
もしそうなら
なんて割りに合わない裁きだろうか
最悪、桐人の手足をぶった斬るぐらいの罰はあってもいいだろう
今まで殺されてきた連中の痛みをほんの僅かでも知り、一生鋏を握れない体に成って仕舞えばいい
けれど、カンナが苦しむ必要が一体何処にあったのか
彼と関わり、救われた彼女の罪は何処に在る
否
何処にもない
少なくとも
気狂い女に裁かれる謂れは彼女に無い
ぐ、と
アグリが拳を握った
自然と唇を噛み、そこから血が滲む
落ちた桐人の首が
脳裏に焼き付いて離れない
涙を流し、絶望するカンナの顔が
網膜に張り付いて消えない
「…」
また
彼女の纏う空気が冷たくなった
路地裏で塵を漁る猫が何かを察してその場を離れる
「…」
拳を握りなおし、アグリは顔を上げた
踵を返し、大通りへと足を進める
暗い道に落ちるオレンジ色の光
ガス灯の光が淡く道を照らし、その先の影を浮かび上がらせた
誰もいない道に一人
黒い影を見る
それは漆黒に包まれた礼服を纏った女の姿で
薄い唇に真っ赤な紅を乗せた彼女だった
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