悪食娘

56/81
前へ
/633ページ
次へ
 後日 所でふとアグリが聖四郎に聞いた 「シロ。めいんでぃ…何とかって何だ」 「何を訳のわからない事を言っているんですか。アグリさん」 「煩い。それで、めいんでぃ…とは何だ」 「それ『メインディッシュ』の事ですか。アグリさん」  助け舟を出したのは有栖川 平然とした顔で聞き返す聖四郎に変わって答える 「食事に於ける主食の事ですよ」 「…主食」 「はい」  成る程、と頷くアグリ そんな彼女に、聖四郎は首を傾げて聞いた 「それで。一体何処でそんなハイカラな言葉を覚えて来たんですか」 「おまえには関係無い」  すっぱりと 聖四郎の問いを斬って捨てるアグリ 知りたい事を知れた彼女はさっさと外套を羽織って巡廻に出て仕舞う まるで逃げて行く様なそれに、聖四郎は違和感を覚えた 「…」  そんな聖四郎の視線を背に、アグリは本日の巡廻経路を廻る 今日も彼方此方で小さな事件が起きる 盗みがあって、喧嘩が起こって、人が死ぬ 見つけた死体は安置所に運び、帰って報告をする 「…あ」  巡廻の最中 自然と足が止まる 過ぎようとしたその道に、見覚えのある花壇 そこに在った花はすっかりと枯れて仕舞い、土は乾いていた  花の開花時期は雨季から秋にかけて 名を「カンナ」と言った 咲けば綺麗な赤色の花弁を持つ、美しい花 その花言葉は「情熱」と、それからもう一つ 「…永遠、か」  すっかり寂れて仕舞った床屋 サインポールは止まったまま動かない  視線を移した硝子窓に映った自分の姿が目に入る 変わらず無表情で、冷めた目をした少女が見えた
/633ページ

最初のコメントを投稿しよう!

135人が本棚に入れています
本棚に追加