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就業後
アグリはまた何時もの様に病院へ向かおうとしていた
所を出て、表通りを歩く
路面電車に乗り、暮れ行く町をぼうっと眺めながら降りる駅を待った
目的の場所で電車を降り、そのまま院へ向かおうと足を進めた
その時
「今晩は」
「…」
見慣れた黒制服
頭に乗った制帽
手に嵌められた黒い手袋
「…何のつもりだ。シロ」
「…巡廻のついでです」
「此処は黒縄町の管轄じゃ無い。巫山戯るのも大概にしろ」
「冗談ですよ。いちいち噛み付いて来ないで下さい」
「…っ」
まるで有栖川と話をしている気分だった
無駄な気回しをきかせて、相手の苛立ちを削いで行く
「…っそれで」
「…」
「おまえは未だ勤務中の筈だったが…」
「有栖川さんにお使いを頼まれたんです」
「有栖川に?」
「はい」
言って、聖四郎が見せたのは花束
「カンナさんの容態を確認して来いと」
「…何の為に」
「事件について、我々が捜査を署へ譲渡した件を彼女に未だ伝えていませんから。容態を見ながら話す機会を、と」
「…」
「一応此れも、勤務に含まれています」
「…」
やはり
有栖川は無駄な気回しが過ぎる気がする
此処で聖四郎が待っていたと言うことは
彼はアグリがカンナの元へ足を運んでいると知っていたと言う事
後ろめたい訳じゃ無い
唯、行動を読まれていたと言う事実が面白く無い
それだけだ
「…ふん」
アグリは聖四郎から視線を外し、再び足を進めた
彼は巡廻時の様に、無駄に口を開く事無く彼女の隣を歩く
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