悪食娘

58/81
134人が本棚に入れています
本棚に追加
/633ページ
 薬の臭いが立ち込める白いコンクリート その中へ足を進め、アグリはカンナのいる病室を目指した が 「ああ、巡査長さん!」  看護婦に呼び止められ、二人の足が止まる 振り返ると、息を切らせた彼女が 「…何だ」 「た、大変なんです…っ」  肩で息をする看護婦が、必死に呼吸を整えて言葉を続ける 「…っカンナさんが」 「っ」  その名を聞き、アグリの背に嫌な汗が流れた  まさか いや、そんな筈はない 此処は署が管轄する病院 警備は万全 不審な人物は突っ返される仕組みに成っている 「…カンナが、如何した」  何とか己を律し、アグリは落ち着いて彼女に問う 「彼女、病室から消えてしまって…」 「…は」 「先程、病室へ行ったら姿が無かったんです。今、他の看護婦と共に探しているんですが見つからなくて…っ」 「…そんな」  有り得ない あの状態で起き上がるなんて 意識すら、真面では無かったのに 「…病院を出た形跡は?」  隣にいた聖四郎が尋ねる 「いえ、警備の者は見ていないと…」 「そうですか…」  軽く頷き、聖四郎はアグリに言った 「それなら、未だこの建物内にいる筈ですね。体力の事もあるでしょうし、何処かで倒れているのかもしれません」 「…ああ」  聖四郎の言葉にアグリも納得する 兎に角、今は彼女を見つけなくては  アグリと聖四郎はそのまま他の看護婦と共にカンナを探した 彼女が行きそうな場所を見て廻り、患者にも聞く  そして 探して行く中で、アグリの中に一つの「仮説」が生まれた  体の動かない筈の彼女 精神が崩壊し、涙を流し続けるあの娘が もし、仮に動ける状態に成ったとして 何を考えるか 「…まさか」  途端 アグリの足が自然とそこへ向かった 居てくれるなと、心で願いながら駆ける
/633ページ

最初のコメントを投稿しよう!