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薬の臭いが立ち込める白いコンクリート
その中へ足を進め、アグリはカンナのいる病室を目指した
が
「ああ、巡査長さん!」
看護婦に呼び止められ、二人の足が止まる
振り返ると、息を切らせた彼女が
「…何だ」
「た、大変なんです…っ」
肩で息をする看護婦が、必死に呼吸を整えて言葉を続ける
「…っカンナさんが」
「っ」
その名を聞き、アグリの背に嫌な汗が流れた
まさか
いや、そんな筈はない
此処は署が管轄する病院
警備は万全
不審な人物は突っ返される仕組みに成っている
「…カンナが、如何した」
何とか己を律し、アグリは落ち着いて彼女に問う
「彼女、病室から消えてしまって…」
「…は」
「先程、病室へ行ったら姿が無かったんです。今、他の看護婦と共に探しているんですが見つからなくて…っ」
「…そんな」
有り得ない
あの状態で起き上がるなんて
意識すら、真面では無かったのに
「…病院を出た形跡は?」
隣にいた聖四郎が尋ねる
「いえ、警備の者は見ていないと…」
「そうですか…」
軽く頷き、聖四郎はアグリに言った
「それなら、未だこの建物内にいる筈ですね。体力の事もあるでしょうし、何処かで倒れているのかもしれません」
「…ああ」
聖四郎の言葉にアグリも納得する
兎に角、今は彼女を見つけなくては
アグリと聖四郎はそのまま他の看護婦と共にカンナを探した
彼女が行きそうな場所を見て廻り、患者にも聞く
そして
探して行く中で、アグリの中に一つの「仮説」が生まれた
体の動かない筈の彼女
精神が崩壊し、涙を流し続けるあの娘が
もし、仮に動ける状態に成ったとして
何を考えるか
「…まさか」
途端
アグリの足が自然とそこへ向かった
居てくれるなと、心で願いながら駆ける
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