悪食娘

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 階段を駆け上がり、向かった先は病院の屋上 僅かに開いていた扉が、アグリの予感の的中を示唆していた 「…っカンナ」  上がる息 鉄柵のその先に靡く赤色 真っ赤に染まった赤灼けにそれは溶けて行く様だった 「…」  すう、と カンナがアグリへと視線を移した 「…何を、している」 「…」 「…さっさと戻って来い」  冷静を装いながらアグリは彼女に告げる 一歩でもその場を動けば 彼女の体はその下の冷たい地面に叩きつけられる 「カンナ…っ」  絞り出す様なアグリの声 それに、答える様に彼女の口が漸く動いた 「…り、とが」 「…」 「…きり、とが…死んじゃった、の…」  ぽろり カンナの瞳から涙が溢れた 「…わ、わたしが…わたしが…いた、から…」 「…違う」 「わたしが、あの人のそばに…いたから…」 「…っ違う」  悲痛な彼女の言葉をアグリは必死に否定した 「違う。おまえのせいなんかじゃ無い。悪いのはあの女だ。おまえは何も悪く無い」  そう 悪いのはあの気狂い女 彼女から桐人を奪ったのはあの女だ 「…わたしが、稀ビトだから…」 「っ」 「だから、桐人は死んでしまったの…わたしと、わたしが、彼と一緒にいたから…わたしが、稀ビトだったから…っ」  そう言ってカンナは泣いた もうこれ以上無い程に 「わたしを守るために、桐人は死んでしまった…わたしなんかを、わたし、なんか…」  カンナを守る為に 桐人はその身を犠牲にした 彼自身を盾にする事で、彼女を救ったのだ
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