悪食娘

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 わたしなんかを そう言った彼女の言葉がアグリの心に刺さった 何処かで聞いた様な言葉だった 誰かが叫んでいた様な そんな気がした 「…わたしを、守って…桐人は死んでしまったの…」  わたしがいたから 「…わたしを助ける為に、桐人は…」  わたしが稀ビトだったから 「…わたしが、あの人を…」  彼を殺した 「…っ違う!」  アグリが叫ぶ 彼女の言葉をかき消す様に 「…っ違う。あいつが死んだのはおまえのせいじゃ無い。桐人を殺したのはあの女だろう」  もっと もっと、何かを言わねば そう思うのに、アグリの喉はからからに乾いて思う様に動かない 「…っ頼む、こっちへ来てくれ」  頼むから その道だけは選ばないでくれ 「…おまえは死んではいけない筈だ」  おまえは おまえの命は あんな女に狂わさせて良い訳がないんだ 「…わたしは…」  ぽつり カンナが呟く 空虚な瞳が、宙を見ていた 「…わたしは、花は、水が、桐人が…」 「…カン、ナ?」 「花は、水が…わたしは…桐人が…」  ぽつり、ぽつり まるで呪文の様に 「…いないと、だめなの、ないと、だめなの…」  ぐらり 彼女の体が傾く 「…桐人がいないと、死んじゃうの…」  空が暮れる 赤い娘が、夜に飲まれてしまう 「行くなっ!!!」  弾かれた様なアグリの体 伸ばした手が、彼女へ  頼む 頼むから その子を 連れて行かないで
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