悪食娘

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 黙々と 唯進んで行く 制した聖四郎を置き、その身一つで暗闇の中へ 「…」  ぎり 唇が切れる 血が滲み、舌の上に生暖かいものが流れ込んできた 「…」  かつ、かつ 踵を響かせ、向かう先は裏通り 魑魅魍魎(ちみもうりょう)闊歩するそこは、ヒトが足を踏み入れる事の無い異界 表通りの裏と為る、黒縄町の中で最も危険とされる場所  普段なら役人が足を踏み入れることの無いそこへ アグリは単身で乗り込んだ  寂れた路地に見える赤い洋燈(らんぷ) その前に控える稀ビト 彼らはアグリの姿に見覚えがあるのか 暫く彼女を待たせた後、すんなりと中へ通した  骨董品並ぶ広間から伸びる螺旋階段 その階段を上って行き、二匹の狛犬の待つ扉へ  がちゃり ノックも無しに、アグリがいきなり扉を開けた 薄暗いその部屋には、先日会ったばかりの男が驚いた顔をして座っている 「…驚いたな」 「…単刀直入に聞く」  性急なアグリに、夜鷹の表情が変わる 「…おまえが以前云っていた『悪食』とは何だ」 「…」  途端 部屋の空気が重く為る 夜鷹はじっとアグリを見つめ、そして慎重に口を開いた 「…彼女に、会ったのか」 「…喪服姿の女だ。斧を携えた、赤い紅を乗せた」 「…そうだ」  夜鷹が目をきつく瞑る 手を組み、何かを考え込んだ 「そうか。やっぱり会って仕舞ったのか…」  瞑っていた瞳をゆっくり開き、彼は今一度アグリを見る  
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