134人が本棚に入れています
本棚に追加
/633ページ
何時に無い夜鷹の真剣な表情
アグリは彼の言葉をじっと待つ
「…彼女は他所から来た稀ビト。出身は知らない…が、少なくとも黒縄町の出では無い筈だ」
「…それで」
「根無し草の彼女は、人肉を喰らう稀ビト。好んだ者の肉から臓器まで食す。一つ所に留まって狩をする事が無い為、今まで誰も手が出せずにいた」
彼女はそのうちに周囲で「悪食」と呼称される様に成った
初めはヒトを喰らっていたが、飽きが来て仕舞ったのか
最近では「稀ビト」を中心とした食事が目立つ
「食事の痕が残らない程の大食らいで、役人もその存在に未だ気づいていない」
「…成る程な」
ぎゅっと
アグリが拳を握る
その様子を見て、夜鷹が問う
「彼女に襲われたのか?」
「…いいや。未だ」
「未だ?」
夜鷹の眉が寄る
「あいつは初めカンナを狙って襲った。前菜だと云ってな」
「…カンナ…」
聞き覚えのない名前
けれど、それを夜鷹に説明する事もなくアグリは続けた
「カンナを庇ったヒトは奴に殺された。骸をそのままに…」
悪食は桐人に興味は無かった
だから彼を捨て置き、再びカンナを探してこの町を彷徨いていた
けれど、悪食がカンナに辿り着く前に彼女は自ら命を絶った
その事を、奴は知っている
何故ならば
あの場に悪食当人もいたから
自らが目をつけていた前菜が散って行く姿を
彼女自身の目に移していたのだ
最初のコメントを投稿しよう!