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足元に水桶を置き、戸棚へと走る。深めの平皿をとりだす。カノトの肘から手首の長さほどの幅広で厚めの土器だ。それを森番の前にすえる。
「一年は土くれより生じ、土くれへと還るもの。水は世をめぐり、ひとや大地を潤して、土の円環を手助けする」
かなでから受けとった桶を、土器のうえで無造作にひっくりかえす。見事に一滴もこぼさなかった。器は難なく満たされる。
森番はたのしげにうそぶいた。
「これからがおもしろいところだぞ。まぁ、みておれ」
かなでがさしだした小袋をとり、やはり適当なしぐさで中身を水盤にぶちまける。色とりどりの粒が水のうえを滑って八方へひろがった。
青、赤、白、黒、黄。どれもふたつずつ、濃淡がある。否、もうひとつ、緑があった。
女の小指の爪ほど大きさをした涙型の粒だ。この色は塗料のものらしい。赤い粒だけ、色が剥げて白い地がのぞいていた。
「吉祥果の種だ。黄は一年の宮が、その他の四色は東南西北の玉依姫が喰らった実の種だな。ここ二代のものだ。淡いほうが新しい」
「緑は?」
「森番です」
口をはさんだのはかなでだった。森番の隣に正座し、土器を両手でささえている。何をしているのかと思う間もなく、儀式ははじまった。
森番は手刀をつくり、ごく浅く水を掻く。しるしや文字を描いているのはわかるのだが、どういう意味のものなのかはさっぱりわからなかった。
カノトは文字をしらない。両親は農村にはめずらしく読み書きができたが、字を教わるより先に病で亡くしてしまっていた。
指が水からあがる。種はふわふわと浮沈をくりかえし、水盤のなかを行き来する。そのなかで緑の種がぴたりと動きをとめた。
緑に導かれるようにすべての種の位置が定まる。浮いているのは三つきり、他は沈んでいた。
「黄の陰、赤の陰、緑」
森番は自分の側に頂点をおいて逆三角形を描いた種を指でたどり、ぶつぶつとつぶやいた。これは占いだったのだろう。解釈に困ったようで、悩みこむように口元に手をあてている。かなでも脇から水盤をのぞいて、首を軽くひねった。
「あなたは、ここにいるべきですね」
「そういう卦が出ているんですか?」
かなでは森番を仰ぐ。うなずきが交わされる。水盤にむきなおり、かなでは黄色の種を指さした。
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