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「かなでさんっ?」
奇矯なふるまいにおどろいていると、かなでははにかむように笑った。ぴょこっとたちあがって、カノトに並ぶ。
「お願いしたの。わたしのつがいにも指環をくださいって」
つがいとは何のことだかわからなかったし、吉祥樹が指環をくれるというのもよくつかめなかった。ただ、かなでが指環をほしがっていることだけはわかる。自分へのことばでなかったのも、さすがにわかっている。
迷った。形見は大事だが、自分の指にはめていては、いつか割れてしまうだろう。売っても、生活のたしにはなりそうもないとも思った。
「あげようか、これ」
指から環を抜きとると、彼女はおもてをあげ、きょとんとしてから、おかしそうに首をふった。さしだした指環をてのひらでおしかえしてから、もとどおりにはめなおしてくれる。
「ひとにもらっても意味がないの。これは、あなたの血脈を吉祥樹が認めたという証だから。わたしにはわたしのものが要る。──でも、めずらしい。三家のヒコ以外に指環を持つひとがいて、森にもいれてもらえるなんて」
つぶやきに、心臓がはねた。
「ヒコ、って?」
何気ない風を装えているだろうか。不安になりながら、こらえきれずにたずねる。
やはり、多少は声がふるえてしまったのかもしれない。かなではふしぎそうにこちらをみあげた。吉祥樹に会釈をして、家へと道をもどりつつ、口をひらく。
「三家の長のこと。家長の近縁の娘が玉依姫になるの。三家の長も持っているの、この指環と同じものを」
父はいったいどこから指環を手にいれてきたのだろう。指環をはめた右手ごと、左手でおおう。父は、いったいどこから、あの名を手にいれてきたのだろう。
「かなでさん。もしかして、ヒコはその前に名がつくの? なんとかヒコって」
「そう。東の高倉家は佐保彦(サホヒコ)、西の櫛笥(クシゲ)家は竜田彦(タツタヒコ)、北の猪熊家は白彦(シラヒコ)。政(まつりごと)のときは名乗らないの。祭事のときだけね。ヒメと対になるときだけ」
かなでは足元の草を蹴って歩いていく。草がはねるのを冷えた視線で見下ろしている。しばらくはくちびるをひきむすんでいたが、ぱっとむこうをみた。
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