旅立ちの朝

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 勇気をだした問いかけだった。  吉祥果を食べてもよいかと聞いたかなでにたいして、森番は裁縫の手をとめもせずに答えた。 「ならぬ。あれは玉依姫(タマヨリビメ)になるための果実だ」 「ばばさまは前におっしゃいました、わたしもヒメになれる血だって。それに、ばばさまだって召し上がったじゃありませんか。ばばさまは森番で、玉依姫ではないでしょう?」 「聞きわけのない」  あきれたように言って、森番はようやく針を休めた。座った姿勢で、傍に立つかなでにむきなおる。切れ長のひとえの目が厳しい視線をよこす。  しかられると身構えていた。予想に反して、叱責はとばなかった。言いよどんだように一拍おいて、言い捨てられる。 「ヒコはどうする。ヒメひとりがいたところで、どうにもならないと知っているだろう。吉祥果は、やらぬ」  最後のひとことには特に力をこめて、手元に注意をもどす。針がきびきびと動きだす。  縫い目がふえていくのを、かなではただ見ていた。  巫女である玉依姫は、ひとりでは役に立たない。姫はただの祭司だ。政をつかさどるヒコと対になり、補い合わなければ、機能しない。それは、何度も聞かされていたことではあった。でも。  かなでは十二歳になる日を指折り待っていたのだ。ヒメになれるのは十二歳からだと聞いていた。十二歳になって、思いきってたずねてみたら、『もう数年待ちなさい』と言われた。だから、十三歳のときは我慢したし、こうして十四歳になるまで、この件についてはひとことも口にしなかった。  それなのに、今度はヒコが必要だと来たものだ。
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