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考えたって仕方がない。そんなコトは馬鹿げてる。
(ぼくで何人目なの? ねえ……伊織さん)
ぼくの脳裡でぐるぐると、そればかりが蠢き蝕(むしば)んでゆく。キスされながら、女々しいコト考える自分が嫌だ。なんて浅ましいんだろうって、そう思うけれど……どうしても消えてはくれない。
「また何かイケないことを考えているね。いいかい、僕が大好きなのは、心から愛しているのは、きみだけだよ? 僕はきみだけのものなんだって、それを忘れないで」
その言葉にハッとなったぼくは、彼にしがみついて、その大きな胸に顔を埋めた。
「ゴメンなさい伊織さん。ぼく……伊織さんが大好きすぎて、心配しなくていいコトまで考えちゃって。キスが上手いだけで、胸がぎゅってなったんだ。ほんとうにゴメンなさい」
「それは僕の過去に、秋良は嫉妬してくれてるって、そう受け取ってもいいのかな。秋良には悪いけど、だったら嬉しいな」
伊織さんはくすくすと、ぼくを俯瞰(ふかん)しそんなコトを言う。
ぼくが胸を痛めてるっていうのに、彼は婀娜やかな笑顔を浮かべてとても幸せそうだ。なんだかこんなのって不公平だ。ぼくは伊織さんに抗議しようと口をひらく。
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