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「ふ……んッ、……ぅ」
舌をねじ込まれ口内を蹂躙されると、それだけでぼくの腰から力が抜けてゆく。
頽（くずお）れそうなぼくの腰を、伊織さんがしっかりと支えてくれる。あまりの気持ち良さに、ぼくの目尻から生理的な涙がつたった。
舌を引き抜いた伊織さんは、恍惚とぼくを眺めながら、つたう涙を舌で舐め取ってゆく。その感覚にさえ、ぼくの四肢はぞくりと戦慄（わなな）く。
「ふふふ。どう感じてくれた？」
「……はい」
「そっか。僕もこんなに気持ちいいキスは、秋良じゃないと味わえないよ」
『ぼくもです』――そう言おうと口をひらきかけたけど、すんでで其れをつぐんでしまった。
伊織さんはそんな気持ちいい口づけを、ぼく以外にもしてきたのだろうか。基睦先輩とつき合っていたんだ、なら当然彼とはしてきたのだろう。
それは過去のコトだし、ぼくもそんなコトを一々と気になんてしたりはしない。けれども伊織さんの口づけは、ほんとうに気持ちいいんだ。
ぼくは伊織さんがファーストキスの相手だから、他のひとがどうかなんて、そんなのは知らない。でもきっと伊織さんは、沢山のひとと交わしてきたんだろうなって、それくらいは分かるんだ。
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