1152人が本棚に入れています
本棚に追加
「よろしくな、地味夫くん。さあ行こうぜ」
「え? どこに……って、ちょっと待っ、うわ!……腕を引っぱらないで」
急になんだっていうんだ。握手だと思って手を差し出した途端、彼がぼくの腕を掴んで速歩(そくほ)で進みだす。腕を掴まれたぼくは、彼に引っ張られてつんのめる。
あまりの強引さに、ぼくは地味夫呼ばわりされたことへのつっ込みも、どこに行くのか訊くこともできず、ただ引き摺られるようにして彼の後をつづくしかなかった。
「あ、俺『咲希 弓弦(さつき ゆずる)』っての。二年だ、よろしく!」
☆ ☆ ☆
彼――咲希先輩に連れられてたどり着いたのは、構内三階の一角にある、何の変哲もないドアのまえだった。フロアにはドアが二つあって、向かって左側のドアに、ぼくは釘づけになってしまう。
ドア自体に不思議はない、注目すべきはドアプレートの方だ。プレートにはこう書かれている、『イケメン部』と。かなり抽象的だと思うけど、もしかするとシャレのつもりなのか、そうも思える。
けれどひとつだけ言えることがある、それはずばり『胡散臭い』だ。未だ嘗て、ぼくはこれ程までに怪しげなネームプレートを見たことがない。
「着いたぞ。今日からここが、おまえの通う場所だ」
最初のコメントを投稿しよう!