act.0.5 Prologue -選ばれし者-

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 咲希先輩は『イケメン部』のドアを指さして、僕に向かって信じられないことを言う。 「え、どういうことですか!? ぼく……本気で嫌なんですが」  今日から通う場所と言われて、はいそうですかと納得できるわけがない。それにまだ入学してもいないのに、サークル活動だなんて早すぎると思う。  咲希先輩の言葉に狼狽えながらも、ぼくは彼に拒絶を口にする。けれどそれを素気無く躱された挙句、とびきりの笑顔をぼくに向けながら、彼は勢いよくドアをひらいた。 「ただいまーッす。弓弦、いま帰りました。大物が釣れましたよ」  弾けるような挨拶とともに、咲希先輩がぼくに対する失礼発言を、堂々と言ってのけた。 (大物って、それどういう意味? ぼくを海魚みたいに言わないでよ) 「おかえり弓弦、ご苦労さま」  心のなかで、ぼくは咲希先輩に向かってあかんべえをしていると、部室の奥から目が覚めるほどに美しい男のひとが、咲希先輩を出迎えにやって来た。 「ふふふ、緊張しないで。それにしても弓弦、いい子を連れてきたね。完璧じゃない」  笑顔の美しいそのひとは、ぼくたちの許へと優雅な身のこなしで歩み寄る。彼はぼくの頭に手を添えながら、「怯えなくても大丈夫」と優しく微笑んで、それから咲希先輩を労った。 「ありがとうございます、伊織さん」  この綺麗な男のひとの名は、伊織(いおり)先輩と言うらしい。名前はひとを表すと言うけれど、伊織先輩はその言葉通りのひとだと思う。  彼の綺麗な顔に見惚れていたぼくは、伊織先輩の他にも部室にひとがいるなんて、気づきもしなかった。 「でかしたぞ弓弦。どれ、どんなやつか確かめ――……ッ!?」
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