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「明日は何の日か、知ってる?」
夕日が、静かな教室を照らす。君の笑った顔が、私の胸の鼓動を大きくする。二人っきりの教室で、その綺麗な瞳に映っているだけで頬が熱くなる。私はそれを隠すように窓の外を見て、平静を装う。
「明日? さぁ、何かあったっけ」
「わかんねーの? ……ま、お前真面目だから、子供っぽいのとか嫌いそうだもんな」
ニッと白い歯を覗かせ、勢いよく立つ。帰ろうぜ、そう言われた。
……まだ、一緒にいたい。傍にいてほしい。その言葉は、外へ出される前に喉の奥へと消えていった。
だって私は知っているから。
夏の夜は明るい。昨日雨が降っていたせいか地面はぬかるんでいるし、馬鹿みたいに暑い。クーラーの効いていた教室がもう懐かしく思われた。
「あっつ……」
制服のボタンをいくつか開けて、バタバタと仰いでいる君を見て、ふっと微笑んだ。昔も今も、全然変わらない子供っぽさが可愛い。ムードメーカーとしてクラスを盛り上げてくれて、友達も多い。でも私を見捨てないで、こうやって一緒に帰ってくれる。
……そんな君が、私は――
「そういえば、明日は何の日なのか聞いてないんだけど」
また、飲み込む。君は前を向いたまま、
「教えな~い」
と意地悪そうに言った。わざわざ聞いてくるなんて、そんな大事な日でもあっただろうか。考えてみるが思いつかない。あとで調べてみようか……。
「ん、じゃあ今日は俺こっちから帰るわ」
またな、と手を振って去っていく君の姿を見送り、ほっと息をついた。
日を追うごとに、君を想う気持ちは大きくなっていく。毎日が辛くて、苦しい。甘いなんて言った人の気が知れる。
……どうせ家に帰っても、両親は朝方まで帰ってこない。しばらくのんびり空でも眺めようかと、河原へと足を運ぶ。この河原は小さい頃からよく来ていて、お気に入りの場所なのだ。
空が薄暗くなりはじめ、微かに星が光るのが見えた。消えそうで、でも確かに光を発しているそれは私の恋心のようで。
「……あぁ、今日は」
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