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そうか今日は、七夕だったのか。
私は時間を忘れ、ただじっと星を見続けた。空は暗さを増し、小さかった一番星はさっきよりも大きく見える。織姫と彦星が今日、一年ぶりの再会を果たすのか。一年も想い人に会えないなんて、きっと――すごく寂しいし、辛い。
願いを、こんな私の願いを叶えてくれるのならば、私は――
ピロロロロロ
携帯が鳴った。相手は――わかっている。私の携帯に入っているアドレスなど、両親と君のくらいだ。
「……もしもし」
「あ、俺だけど」
「何? こんな時間に」
こんな時間とは言ったものの時刻は八時。家に帰ってからしばらく経った頃だろうか。
君はひどく緊張している様子で、深呼吸が聞こえる。
「……あのさ、俺を……その……励ましてほしいんだ」
「は?」
「お前、いつも俺の良いとこに気付いてくれてさ、褒めてくれるじゃん。あれすっげー嬉しいんだよ。だから、俺なら出来る、って言ってほしい」
「え、どうしたの? 何か用事でも――」
「今から俺、好きな子に告白するんだ。でも勇気出なくて……お願い」
頭が真っ白になった。七夕の日、好きな子に告白する。昔そう言っていたのを思い出した。
見開いた目が乾いて、涙が出てきた。息がまともにできない。「知ってるだろ? ○○ちゃん」聞いてもいないのに相手の名前を言う。知っている。いつも君の視線の先にはあの子がいた。だから私は、君への想いを隠して、バレないように……。
「わかった」
掠れた声が、喉から出た。
「君なら出来るよ。大丈夫だから……安心して。私はいつでも君の味方だよ。……応援する」
何度か、深呼吸の音。
「ありがとう。頑張ってくる」
「……うん」
「じゃあ、今から言って来るな。ほんとに、ありがと」
電話が切れた。その瞬間、涙と嗚咽が溢れ出た。君の、彼女を見る優しい瞳、話しているときの幸せそうな笑顔、全部全部見てたから――。
私に言われたこと嬉しかったって、そんなこと言わないでよ。辛い想いのまま、終わらせたかったのに。
君との楽しかった日々が蘇る。楽しかった日々を……。
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