抱きしめるより もっと

開店準備室 カコ

・・・・・

玄関のドアを開けたとたん、
照りつける太陽に熱せられた空気に、じわりと汗が吹き出す。

ネイビーの薄手のカーディガンのボタンを外しながら、

ふーっとため息をつき、見上げる視線の先には

抜けるような水色の空。

綿あめをちぎってちりばめたような雲が
なんだか とてもかわいくて、

にやける。

まだふわふわして落ち着かない心臓が、くすぐったくて、

カーディガンを脱ぎながら、
南国にありそうな庭木を横目に

大股で、

細い通りを

ずんずん、進む。

青々と繁る 銀杏並木の大通りに差し掛かり、ちらっ と振り返った先に佇む、

白に煉瓦色のアクセントを効かせた
ヴィラ風のオフィス。

濃いベージュブラウンの瓦屋根が
太陽に照らされ、艶々してる。

――可愛い。

やっぱり、にやけながら

バッグから取り出した、ペットボトルのお茶を、ごくりと飲み込んだ。