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「しっかり、捕まれ」
青鬼は山を下った。
朝告げ鳥が鳴く前に。月が朝を迎える前に。
寝静まった集落へと入り、タキの匂いと同じ家を探した。
「……ここじゃ……」
村の外れの小さな小屋が、タキの生家だった。
だん、だん、と、戸板を小さく叩いてみると、中より「誰じゃ」と声がする。
「おとうの声じゃ。おとう、おらだ。タキじゃ」
「タキじゃと……?」
戸板の心張り棒を外す音が聞こえ、タキの父親が顔を出した。
細い男だ。月明かりに照らされたタキを見て、男は目を見開いた。
「……ほんとじゃ、タキじゃ。
……おめ、どうしてここへ……」
まるで幽霊を見るように、父親はタキをまじまじと見、タキの目の前で手をひらひらと振った。
目が見えるようになったのかと、試したのだ。
しかしその手に何の反応も示さぬタキを前に、父親は冷たい目を向けた。
目は口ほどに物を言う。
青鬼はタキの父親の考えが安易に読み取れた。
また棄てて来ねば、と、思ったのだ。
タキの目が見えんでよかったと今だけ思った。
親が子を、あんな目で見るのか。
怒りのあまりに背中の毛が逆立った。
怖がらせてはいけないと闇夜に気配を消していたが、父親の目を見て青鬼は姿を表した。
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