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「……っひぃっ! お、鬼じゃあっっ!!」
突然現れた青鬼に、タキの父親は腰を抜かした。後ろに下がろうと踵が土を蹴るが、力が入らずに無様に暴れている。
「た、たすけ、おたすけを!わしにゃ、女房も子供もおるんじゃ! どうか、お命だけは!」
「おに……?」
タキは顔を青鬼のいる方へと上げた。その顔には怯えはない。目が見えない筈なのに、澄んだ瞳に青鬼を写したタキは心底不思議そうだ。
「そ、そうじゃ、タキ。こいつをっ、こいつの命を捧げますじゃ。だからどうか、どうか……!」
「……なんじゃと?
タキも、おめの子供じゃねえのか」
「わしの代わりに、どうかこいつを……!」
「おとう……」
地べたに頭を深く下げ、命乞いをするこの男が心底汚いものに見えた。
こんな奴に会いたがったタキが、あまりにも哀れだ。太腿辺りにタキがぎゅっとしがみつき、顔を強く当てて絞り出すようにタキが声を出した。
「……ゴンベ、かえろ。いえさ、かえろ」
小さく震えているのは、父親の言葉に泣いているからだ。
「タキ……」
「もう、ええ。かえろ」
青鬼はタキを優しく抱きあげ、父親を見下ろした。
ぶるぶると震えながらも、父親は2人を上目遣いで見つめている。
「もう来ねえ。安心しろ」
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