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冷たかった朝の空気が少しづつ熱を帯び、小鳥たちもさえずりはじめた頃。
「……ここは……? なしてこんな所に?」
意識を取り戻した村人たちは困惑していた。
青鬼があげた咆哮により、村人たちは山へきた訳を忘れていたのだ。
タキの父親も、ぐらぐらと痛む頭を抑えつつ何があったのかと辺りを見回す。
すると、少し離れた場所に小さな子供が。
「……タキ?」
ボロボロの着物をまとい、タキはうつ伏せで草の上へと倒れていた。その姿に、小走りに父親は駆け寄って体を揺すった。
「タキ! 大丈夫か!」
「……ぅう……おとう……?」
無理やり起こされたタキは目を開けた。
見知らぬ山の中で、なぜかおとうと村の大人の男衆に見つめられている。
「ここは……? おとう、おらどうしたんだ?」
タキの質問に、父親もさあ、と首を傾げた。
「よく、分からんけども、帰るか」
そう言われ、タキは立ち上がり父親の後に続いた。
初めて見る場所に、思わずきょろきょろとしてしまう。
「タキ。よう見えんから、おとうの右側を歩け」
「おう」
父親の言葉に従い早歩きで進むと、足元に小さな白い花を見つけた。
なんの変哲も無い、ただの草花だ。
なのに、タキの目から涙が出た。誰かが泣くなと言ったのを思い出した。
振り向いてもそこにはあばら家がポツンと建つのみ。誰なのか分からない。
だけど、大切な、大切な名前だとわかって、タキは最後につぶやいた。
「……ゴンベ?」
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