泣いた青鬼

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幼女の名前は「タキ」といった。 天神様の御参り前に流行り病の高熱で、なにも見えなくなったらしい。 「おとうが、久方ぶりにおらと手を繋いで歩いてくれたんだ。そんで、どんだけ歩いたかわかんねけど、ここで待っとけって。 でも、ずうっとそこで待ってたけども、だぁれも迎えに来んで、獣の声がして怖くなっただ」 そう笑うタキだったが、タキが口減らしに山へ棄てられたのだと青鬼は気付いた。 目が見えてれば奉公に出して、家へと仕送りもできよう。しかし目が見えねば、どこにも出せない。 自分を拾ったのが鬼だとも気付かずに、ありがとうと笑うタキが、哀れに思えた。 「……おとうが迎えに来るまで、ここに居ればええ」 素直なタキを直視できず、ぶっきらぼうにつぶやいた。タキを村へ返しても、また別の山へと連れて行かれるだろう。それならここに居たらいい。 「おめ様の名は、なんて言うだ?」 「名は……ゴンベでええ」 そこから、タキと青鬼の奇妙な生活が始まった。
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