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青鬼はタキを担いで、どこにでも連れて行った。
春には山菜を採り、夏は水浴びをしながら川魚を食べ、秋はキノコや木の実、アケビも食べた。冬はタキが凍えぬよう、たくさん寝藁を寝床に敷き詰め、タキを大事に大事に育てた。
タキとの生活は、楽しかった。
誰かを守るという事は、こんなに幸せなものなのか。今、青鬼は何よりも小さなタキが大切だった。
……しかし、たまにタキは泣く。
タキはそれに気付いていない。寝ている間に小さな声で「おとう、おかあ」とすすり泣くのだ。
闇夜の中で泣く声は、何よりも苦しい。
そんな時、青鬼はただ黙って、タキの背中をとんとんと優しく叩くしかできないのだ。
その日もタキの泣く声で目覚め、タキを寝かしつけた後、青鬼は小屋の外へとでた。
大きな赤松の向こう側で、真っ白な三日月が木に引っかかったように光っている。
「……お月さんよぉ。タキが泣かねぇようにしてやるにゃ、どうすればいい?」
「泣く原因を取り除けばよかろう」
独り言で呟いた声に、思いがけず返事が返ってきた。
よく見れば、月の光に紛れて天狗が赤松の枝にとまっていた。
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