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警視庁捜査一課。
定時をとうに過ぎ、束の間、落ち着きを取り戻していた室内の空気に、ふと、慌ただしさが戻ってきた。
「おい、神原。里中警視に臨場要請、出たっぽいぜ。じき、俺たちにも出動かかるだろうな」
早足で神原諒二へと近づきながら、ふざけ口調で耳打ちしたのは、宿直当番の岩代だった。
「まいったな……今日くらいは、そろそろ帰らせてもらおうと思ってたのに」
神原が、軽く眉間に皺を寄せる。そして、「お前はいいよな、岩代、どうせ泊まりだったんだろ?」と続けて、舌打ちをした。
神原と岩代、互いの口調が気安いのは、いわゆるところの「同期のよしみ」だ。だが、それも互いの階級に差がつくときまでの話であるのは、言うまでもない。
作成途中の供述調書を注意深く保存し、神原はパソコンを立ち下げた。
「畜生、腹減ったな……」
神原が、思わずため息をつく。調書を書き終えたら、すぐに帰るつもりだったから、夕食はまだ取っていなかった。
「まあ、ぼやくなって」
岩代が、神原の肩を叩きながらニヤついてみせる。
だが、課長席から戻ってきた自班の班長の気配を、誰よりも早く感じ取ったらしく、すぐに表情を引き締めると、岩代は、素早く自席へと戻っていった。
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