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「違うよ。本心だよ女将」
サトリ様は急に真顔になられそう仰いました。
「え?」
お恥ずかしいことに唐突に本心だと言われてわたくしはつい、呆気に取られてしまいました。
「ずっとこのまま、さ。人間のままでいられたら。僕達はきっと...」
ずっと一緒にいられる。
それは旅館の妖怪達の祈願でも御座いますが、わたくしども妖怪は人間との婚姻は勿論、違う妖怪同士の婚姻も許されていないことなので御座います。
「判ってるよ。だから僕はずっと人間のままでいたいんだ。女将もそうじゃないかい?」
勿論、わたくしもサトリ様と一緒になりたいので御座いますが。
「なら答えは出ているね」
ですが、わたくしには旅館が御座います。従業員やお客様を置いていく訳にはいきません。サトリ様どうかわたくしの心情を察して下さいまし。
「そうだよね。女将が大事にしているものを奪う訳にはいかないな。僕が我が儘だったね。ごめん」
ありがとうございます。サトリ様。わたくしの方こそ大変申し訳御座いません。
「サトリ様。今夜はその分。二人だけでお祭りを楽しみましょう。折角のおでーとですし」
「そうだね。夜が明けるまでずっと」
わたくしとサトリ様は手を繋いで橋の向こうまで渡りました。
七夕祭りの夜空にはおおきな桃色のはーと型の花火が天高くあがったので御座います。
それでは皆様、ごきげんよう。
了
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